カップリング研究:小次×健7




本サイトを開設したのは2005年2月。昭和末期から溜め込んでいた小次健愛を吐き出すように考察を書き始めました。
若島津については謎が多く、乏しい公式情報から推論をひねり出すのは大変ですが、それゆえ自由に書けたとも言えます。正解しなきゃいけないわけでもないし、メインの対象である小・中学生時代は終わっている。真相はどうせわからない――。
などと高をくくっていたら、令和の世になっていきなり過去エピソード発表。原作者によるスピンオフ作品「MEMORIES4 最強!! 明和FC伝説」(以下MEMORIES)で、何十年も好き勝手に妄想してきた日向との出会いや明和FC入団の経緯などが描かれてしまったのです。
ええ〜っ、今さらどうしてくれんのよ。これまで「不明」の前提でやってきたのに。正直かなりビビりました。あくまで主観と言いながらも、考察と銘打って主張してきたことがあんまりにも的外れだったら困ります。実際読んでみたら案外良かった、というのは感想のページに書いた通りですが、それでもいろいろと思うところはありました。
今回は、MEMORIESにおける独特の描写や新たに判明した内容をテーマに、自分同士でディスカッションしてみました。これまでの考察を検証し、自分で自分にツッコミを入れる試みです。


脳内問答 「大団円!? 考察と妄想とMEMORIES」

 質問者 : 三木ミキコ(仮名) 客観的思考により真理を追究するリアリスト
 回答者 : 二木ニキコ(仮名) 超反射妄想により現実を粉飾するファンタジスト


日向陽キャ問題
 私の知り合い間で最も物議を醸していたのは、日向のキャラが今まで思ってたのと違うということでした。天真爛漫というか、影がないというか、単なるやんちゃ坊主みたいな…。
 小学5年生の話なのに、小学生編と全然違うものね。
 圧倒的な実力と傲慢なほどの自信、勝つためには手段を選ばず、飢えた獣のように残忍で貪欲、誰も信用できない、頼れるのは己の力だけ――そんな印象だったんですが。
 そのへんは原作の「いつもひとりだと思ってたおれ」「まわりはすべて敵だと思ってたおれ」っていう台詞の影響が強いと思う。これを基にした感じのアニメオリジナルエピソードあったでしょう。
 前髪ぱっつんの日向ですね(笑)。鉄工所の社長だったお父さんが亡くなった時の回想ですが、かなり小さい頃のようでした。病床まで借金取りが来たり、信頼していた社員に裏切られたり、家も財産も何もかも失って途方に暮れる子だくさんの母――というハードな内容で、日向の台詞の裏付けとして説得力がありましたね。
 あんな苛烈な生い立ちだったら、人は当てにできないって思って当然よね。うまいキーパーが見つかったって、喜んで声かけたりしなさそう。 
 そこなんですけどね。以前真紀についての考察でボロクソ書いたでしょう。ラブコメを成就させるために、彼女とお似合いのヤサ男に改変されたとかなんとか…。若島津を口説くのも本来の日向では難しくて、ストーリーを思いついてからキャラを変えたんですかね。
 いや、キャラは変わってない。ワールドユース編の回想シーンの日向と同じだから。生活苦にはなっても、心まで闇に落ちてはいなかったでしょ。
 そういえば原作はアニメほど悲惨な話じゃないですね。お父さんが亡くなったのは小4の時。トラックの自損事故で、家も追い出されてないし、明和FCも続けている。
 想定外だったのは日向の性格描写じゃなくて、若島津と出会ったのが陽キャ時代だったことなのよ。岬君の話は小学生編と矛盾があるけど、若島津のは初出だから問題ない。
 まあ人間不信は生まれつきじゃないですからね。でも幼少期からずっと独りで暗闇をさまよってるイメージで考察してました。
 初対面ですでにあの猛虎状態だったら素人を勧誘なんかしないから、若島津が日向を追って明和FCに入団する展開しかないと思う。
 敬語を使っていることを考えても、その方がありそうな気がしますよね。日向の凄さに心酔してついて行くとか、勝負して負けたことからサッカーにこだわるようになったとか、孤独や不幸な面を知って支えてあげたくなるとか、発想としては自然な感じ。
 その路線だと、小次健脳の人は「若島津は日向に身を捧げた」って理解するんだけど、ライトな層は逆に流れるのよね。「先に追いかけた方が攻め」に決まってると…。
 ああ、「2cmでも背が高い方が攻め」っていうのと一緒ですね。
 逆の方が流行ったのも仕方ないわ。尽くす嫁の話って女子ウケしないから。
 でもMEMORIESでは日向の方が若島津を追いかけてつかまえる話になりましたよね。
 そう、明らかに「小次→健」。最初から筋書きは決まっていたんだわ。他の作品を読んでもよくわかる。


セオリーの崩壊と新事実
 他の作品というのはMEMORIESの若林編と翼編ですね。どちらも40年も経って発表されたとは思えない、小学生編の前日譚として納得のいくエピソードでした。
 弥生ちゃんの話は興味深かった。武蔵のマネージャーになったのは淳様からのアプローチだったという。淳様は慕って寄ってくる女なんか珍しくもなくて、自分と元彼(翼のこと)を同格扱いする弥生ちゃんが新鮮に映ったのね。意外だったけど、読んでみるとこれしかないという気がしてくる。
 「慕って追いかけるのは女、男は好意を受け入れるだけ」がヨーイチ作品のセオリーだと断定しておりました。お詫び申し上げます。でも今まで全部同じでしたよね? C翼だけじゃなくスキーとかバスケの漫画なんかも。
 描く機会がなかっただけで、やっぱりタイプによって恋愛パターンも違ったのよね。当然といえば当然だけど。
 考察は既存のデータからひねり出すしかないので、新しい情報が出てきたのはありがたいです。「三杉→弥生」のなれそめも小学生編の頃から考えてあったんでしょうね。
 コンバートの話が消えたのは、後付けだったからじゃない?
 あれは他人のアイデアですからね。「昔はFWだった」とか、取ってつけたような説明を入れてみたものの、元々の構想と合わなくて、具体的な過去エピソードには組み込めなかったってところですかね。
 若島津は「日向が必死で手に入れた天才GK」と設定されていたのよ。しかも若島津の方が格上。
 日向が県内でくすぶってる頃に、空手で全国優勝。初対面で日向のシュートを止め、サッカー勝負にも勝ったし、最後の瓦割りも「引き分けだったから日向の勝ちでいい」と上から目線。若林と修哲メンバーみたいに実力でねじ伏せられるような話だったらどうしようと危惧していたんですが、違っていて安心しました。
 君臣出会い物の典型は二つあって、一つ目が「牛若丸と弁慶」。自分を倒した相手に心服して「ハハーッ、まいりました。お供します!」みたいな。修哲はこのパターン。
 源三は弁慶じゃなくて御曹司の方ですね(笑)。井沢君たちも初めは反発するけど、厳然たるレベルの差を見せつけられて、心から尊敬するようになっていきました。
 もう一つは「玄徳と孔明」で、主君が有能な臣を求めて訪ねて行く。臣下の方が高所にいて、相手の器と熱意を見定めて「わかりました。力になりましょう」と。日向と若島津はこっちだった。
 若島津が参謀系なのは良しとして、日向がキーパー獲得のために道場まで押しかけたのは意外でした。あそこまで恥も外聞もなく若島津を欲しがっていたとは…。お供のタケシも呆れるほどのしつこさ。
 三顧の礼って言うには乱暴な道場破りだけど、オッケーしてもらえるまで何度でもチャレンジするつもりだったでしょう。
 君臣というより「初めての友達」という感じでしたが。
 強すぎて孤高の存在だったっていうし、友達のために道場を出るだけでもすごいの。
 若島津が明和FCに入団した時の日向の喜びようは、まさに水を得た魚でしたね。
 無名時代の主人公が孤高の天才を味方に得る、英雄が英雄を知る物語が二人のベースだったのよ。


残された行間――敬語の謎
 MEMORIESは若島津がGKデビューした秋の県大会で終了しました。若島津は日向のことを「大将」と呼んでおり、最後までタメ口のまま。これがどういう理由で敬語になったのかは判明しませんでした。
 気にはなるけどそのへんは特に思い入れ強いから、自分の願望と全然違ってたら拒否反応出そう。
 私は同人誌を読み始めた頃から、若島津は知り合って間もないうちに自然と敬語になったものと思い込んでました。第一印象が沖田総司と被っていたんです。浮世離れした天才で、真面目で素直な性格。土方さんが無茶苦茶やってても「大人物」とか思って勝手に尊敬しているような。
 戦ったら自分の方が強いけど、人の上に立つ偉い人は次元が違うと。「将の将」ってやつ?
 それは劉邦と韓信。まあ言わんとしているところは一緒です。考察も大体その線で書いてきたんですけど、MEMORIES時点の日向はまだそんな強烈じゃないんですよね。吉良監督の説明によると、日向が猛虎になったのは「若島津の事故後」。ここでようやくお馴染みのギラギラした日向の登場です。
 この時系列だと日向を奈落の底に突き落とした張本人は若島津、というふうに読めるんだけど。
 そうなりますよね…。しかもそれまで得意の絶頂だっただけに、落ち方が半端ない。事故に遭った若島津を責めるわけにもいかず、もう自分の運命を呪うしかないですよね。
 若島津も明るくて子供らしい日向を見てきたから余計にショックよね。自分のせいでそんなことになったら。
 空手でもサッカーでも順風満帆で来た若島津の、初めての挫折じゃないでしょうか。事故に遭ったのを機に若島津の自信が揺らぎ、二人の関係性が変化する――というケースは想像してたんですけど、まさか日向を地獄へ落とした責任まで背負ってるとは思いもしませんでした。
 小学生なのに壮絶すぎる。同人誌だってこんな残酷な設定ないわ。でも結構好きなのよね、この手の話。
 一時期ハマったタイバニとかロクティエ(00)とか、自分をかばって相手が死にかかったりするやつですね。罪悪感で苦しんでるとき当の本人に優しくされて、それまで高飛車だったのが急に可愛くなってしまう。典型的なツンデレですよね。
 「あの人を守る」とか言い出したらもう受け一直線。小次健はちょっと違うかなと思ってたんだけど、MEMORIES最後まで読んだら自分のシュミに近くなってた。
 こうして順を追っていくと、日向って最初からずっと若島津を大切にしてますよね。大喜びでチームに迎え、ピンチの時は助けに行き、怪我で離脱したのを責めることもなく、笑顔でお見舞いに来たりして。
 あのお見舞いが日向を慕って東邦に入学した理由のようだったし、どんなに辛い状況でも若島津には優しいってところが鍵なんだと思う。真偽はどうあれ、表現としては一貫してる。
 友達のいなかった若島津がだんだん日向に心を開いていってる様子までは描かれてましたよね。以降の情報は断片的でよくわかりません。
 それまでの経緯から自然に尊敬するようになったのか、事故のあと日向を見る目がガラッと変わったのか…。どっちでも行けそう。
 あえて決定的なところまで描かなかったんだとしたらありがたいです。連載の都合で端折っただけかもしれませんが。
 きっと妄想の余地を残してくれたのよ。とりあえず源三みたいな話(敬語強要)じゃなかったのは御の字だわ。


譲れないもの
   明和島津と言ったらこれに決まっている
 というわけで、MEMORIESは小次健考察にとって有意義であり、個人的な好みにも近いものでした。これをもって「正史」とし、今後の創作に反映させるかどうかについては――。
 それは無理。ちょっとネタにはするけど、妄想には出て来ないと思う。
 理由は?
 だって若島津の造形が違うんだもの。明和FCの若島津といったらこれ(→)でしょ?
 もちろんです。
 このビジュアルじゃないと何も浮かばないのよ。私にとって小学生の若島津は、身長は日向と同じくらいでスリムで頭バサバサで片目隠して異様な雰囲気なんだけど帽子とったら可愛いの。それだけは絶対に譲れない。
 もともと原作がそうだったんですけどね。絵柄の変化というより、今の若島津をそのまま使った感じでしょうか。いろいろ議論してきましたが、唯一のネックは日向のキャラとかじゃなくて、若島津の見た目だったと。
 中身はちゃんと本人だし、顔も超可愛いんだけど、なんか違うの。今頃になって「これが真相です」って言われても、こっちはもう40年近く妄想してんのよ。そう簡単に置き換えられるわけないじゃない。
 それが本音ですね(笑)。でもやっぱり公式エピソードを出してもらえて良かったんですよ。先生が考えた二人の過去を読んで、改めて考察した上でなお「原作は小次健である」と確信できましたから。
 そうね。ヨーイチ作の小次健が読めたのは幸せだった。先生ありがとう。都合のいいとこだけ頂いて、これからも自分の理想を追求しますわ。



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